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マディソン郡の橋(1)

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この映画が封切りになったときに、見ようと思っていたのが、機会を失ってしまい、今日までいたったものである。なぜ見たいと思ったのかよくわからない。
この間たまたまビデオが手に入ったので、ようやく見ることができた。この映画の製作日は一九九五年であるので、すでに十年が経過してしまっている。原作も読もうと思って買って置いたはずなのに、そのことすらすっかり忘れてしまっているほどの昔のことになっている。

主演のクリント・イーストウッドは私たちの世代ではテレビ番組の「ローハイド」でなじみになった俳優として知られている。彼もその後は「ダーティ・ハリー」などその他のハードボイルド風の映画や西部劇で活躍していたようだが、あまり興味も持てず、私はほとんど見たことがない。


この映画は作家ロバート・ジェームズ・ウォラーのベストセラー小説を映画化したものであるという。主題は男女の愛である。ただ、普通の恋愛映画と違う点は、中年の男女の愛を描いている点である。男は離婚の経験者であり、そして、女の方には夫と娘と息子がおり、彼女は普通の家庭の主婦である。だから、当然に彼らの愛は不倫の愛である。



男は職業がカメラマンで自分の理想を追求して家庭を顧みない、──省みないということではないのだろうが、少なくとも妻にはそのように見られて、結局離婚している。そして、この主人公がカメラの魅力的な被写体を求めて、とある夏にアメリカ南部の州──アイオワ州の田舎町を訪れたことに始まる。そこで、たまたま道を尋ねたのが平凡な家庭の主婦フランチェスカ──彼女はメリル・ストリープが演じていた──だった。夫や子供たちは牛の品評会に彼女だけを残して出かけて、四日間を留守にしていたところから、二人の関係が始まる。


フランチェスカはもともとはイタリア出身の女性で、イタリアに旅行に来ていた夫と恋におち、結婚のためにアメリカにきたという設定になっている。しかし、彼女の幸福な家庭の生活範囲の狭さに、そしてまた、よくできた夫との平凡で幸福な夫婦関係に贅沢な倦怠を覚えていた矢先の出来事だった。


この土地を訪れた、よそ者であるこのカメラマン──キンケイドは、魅力的な被写体として「屋根のある橋」を探し出し、その道案内をたまたま時間に余裕のあった主婦フランチェスカに頼むことから物語は始まる。主婦は、行きずりのこの男に何か運命的なものを感じ、家族が誰もいない彼女一人が留守にしている家にキンケイドを泊める。もちろん、すでにこのこと自体は危険な行為である。実際にフランチェスカは、キンケイドがたまたま、彼女のイタリアの郷里に詳しかった因縁もあって、親しくなり、一晩の床を伴にすることになる。

物語の中には、ルーシーという彼女と同じ町に住む女性で、道ならぬ恋のために小さな町じゅうの噂の種になって、人々からもよけものにされている女性を登場させている。そのことによって、フランチェスカの行為の危険な結果を暗示している。二人の情事が知られれば、たちまち、ルーシーという女性の運命が、フランチェスカの運命にもなるのである。


この物語は、キンケイドとフランチェスカのたった四日間の恋が、その遺品の中に残された三冊のノートブックに記録されているのを彼女の死後になって読むことによって、初めて子供たちが知ることになっている。
映画では、すでにすっかり成人した娘と息子の二人が──そして彼ら自身も自分たちの結婚生活や恋愛関係にそれぞれに問題を抱えているが──そのノートブックを読むことによって、平凡な母親であると信じていたフランチェスカの知られざる一面を、四日間の日々を回想することによって知るという構成になっている。特に息子のほうは、父親を裏切った母親の行為を醜いものに思い、なかなか母を許せないでいる。
by hosi111 | 2005-12-01 19:17 | 芸術・文化